
指示を出しても、その場しのぎでしか動いてくれない。かといって強く言えば、パワハラだと受け取られないか不安になる。放っておけば、いつまでも育たない。部下や後輩との関わりで、こうした行き止まりに突き当たっている方は少なくありません。
その打開策として、コーチングという言葉にたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
要点を先にお伝えすると、コーチングのカギは、教え込むのをやめて、相手が自分で答えにたどり着くのを助けることにあります。
そして、これは特別な才能を必要としません。むしろ、自分が上手に話すより、相手に話してもらう関わりなので、話すのが得意でない人にこそ向いています。
以下では、コーチングとは何かとティーチングとの違いを短く押さえたうえで、4つの基本スキルと進め方のステップ、避けたいNGを解説します。
また、型を覚えた先でつまずく、実際の対話の運びを、会話例で具体的に見ていきます。
コーチングとは?ティーチングとの違い
コーチングとは、答えを教える代わりに、問いかけと傾聴によって、相手が自分の中にある答えに気づけるよう導く関わりのことです。
大切な前提は、話の主導権が相手にある、ということ。こちらが正解へ引っ張るのではなく、相手が自分で選んだ道だからこそ、納得して動けます。
ティーチングとの違いと使い分け
コーチングとよく比べられるのが、ティーチングです。違いは、答えを持っているのが誰か、にあります。ティーチングは、こちらが答えを持っていて、それを教える関わり。コーチングは、答えは相手の中にあるという前提で、問いかけて引き出す関わりです。
使い分けを誤ると、どちらもうまくいきません。たとえば、入ったばかりで仕事の流れもまだ知らない相手に、「どう進めたらいいと思う?」と問い続けても、答えの材料を持っていないので、黙り込むしかありません。
ここは、まず手順を教えるティーチングの場面です。逆に、もう自分で判断できる中堅に、いちいち「こうやって」と手順を渡していると、考える機会が奪われ、かえって指示待ちになっていきます。ここは、引き出すコーチングの場面です。
見分ける目安は、相手が、答えを出すための材料、つまり必要な知識や経験を、すでに持っているかどうかです。材料がなければ、教える。材料はあるのに動けていないなら、引き出す。
この基準で見ると、目の前の相手にどちらが要るかが判断しやすくなります。
そして実際の面談では、この2つを行き来します。まず、判断に必要な情報だけ手短に渡し、そのうえで、「じゃあ、ここからどう進める?」と本人に考えてもらう。
きれいにどちらか一方だけ、ということはまれで、相手とテーマに応じて、教える割合と引き出す割合を調整していくのが現実的です。
コーチングの4つの基本スキル
コーチングは、いくつかのスキルの組み合わせで成り立っています。代表的なのが、次の4つです。
ただし、覚えておきたいのは、これらは相手を上手に動かすためのテクニックではない、ということです。4つとも、相手が自分で答えにたどり着くのを助ける、という一点につながっています。
人は、頭の中で考えているだけのことを、口に出して誰かに聞いてもらうと、ばらばらだった考えがつながっていきます。
コーチのスキルは、その整理を横で支える道具だと考えてください。
傾聴|引き出す土台になる
コーチングの出発点は、話すことではなく、聴くことです。自分が話したくなっても、ひと呼吸おいて相手に譲り、話の主役を相手にします。
相手の言葉を、こちらの解釈で言い換えずに受け止める。ただ聴いてもらえるというだけで、相手は話しながら、自分の考えを整理していきます。
聴く力を具体的に高める方法は、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:傾聴力の高め方とは?部下の本音を引き出す聴き方のコツと、聴けない癖の直し方
質問|考えを広げ、深める
コーチングの中心にあるのが、問いです。ここで意識したいのは、問いは相手を正解へ誘導する道具ではなく、本人の中にある答えを一緒に探すためのもの、ということです。はい、いいえで終わる問いではなく、相手が自分の言葉で考える、開かれた問いを使います。
なぜ、と過去を責めるのではなく、どうすれば、と前を向く問いにすると、相手は考えやすくなります。
場面ごとの具体的な質問例は、以下の記事にまとめています。

関連記事:すぐ使える1on1の質問例50|目的別リストと、会話が続く受け方
承認|その人らしさを、具体的な言葉にする
承認は、相手が安心して話すための土台です。ここに、ポジウィルらしい一手があります。ただ、いいね、すごいね、とほめるのではなく、その人ならではの持ち味を、具体的に言い当てて返すのです。
うまくいった仕事を一緒に振り返ると、その人が何をどう工夫したかが見えてきます。そこに、あなたのこういうところが効いていた、と名前をつける。
抽象的なほめ言葉より、この具体の一言が、相手の自信になります。扱うのは、あくまで仕事の中での経験です。
フィードバック|見えたことを、そのまま返す
こちらが見て感じたことを、相手に返すのがフィードバックです。言葉だけでなく、表情や声のトーンの変化も材料になります。
決めつけずに、私にはこう見えた、という形で返すと、本人が気づいていなかったことに触れるきっかけになります。
承認とフィードバックの具体は、以下の記事でも扱っています。

関連記事:部下育成の方法とは?基本のポイント・指導法と聞き方・問い・強みの引き出し方を会話例で解説

関連記事:後輩育成のポイント|教え込むより引き出す育て方と、よくある悩みの対処法
この4つは、別々に使う技ではありません。実際には、一回の対話の中で、続けざまに使われます。次の章で、その流れを見ていきます。
コーチングの進め方|対話の基本ステップ
コーチングの対話は、大きく4つのステップで進みます。各ステップで、そのまま使える問いを添えておきます。ただし、これは上から順に流す手順書ではありません。
主役はあくまで相手で、コーチは傾聴と問いで場を支えるだけです。答えを与えず、本人に選んでもらう、という姿勢が、どのステップにも共通します。
1. 現状を聞く
まず、いまどうなっているかを、事実として一緒に確認します。良い面と、そうでない面の両方に触れると、状況が立体的に見えてきます。
「いま、その件はどんな状況?」
「うまくいっている部分と、引っかかっている部分は、それぞれどこ?」
2. 課題に気づいてもらう
現状を整理したら、何がネックになっているかを、本人の言葉で見つけてもらいます。ここが、コーチングらしいところです。
こちらが「原因はこれだね」と診断して渡すのではなく、問いを重ねて、本人が自分で気づくのを待ちます。
自分で見つけた課題は、人から指摘されたものより、ずっと自分ごとになります。
「その中で、一番の引っかかりは、どこにありそう?」
「そうなっているのは、なぜだと思う?」
3. ありたい状態を描く
次に、どうなっていたいか、という目標を描きます。コツは、目の前の課題からいきなり対策を考えるのではなく、少し先の、こうなっていたいという姿を先に描いて、そこから逆算することです。
ゴールが具体的になるほど、いま何をすべきかがはっきりします。そしてもう一つ大切なのが、この目標を、こちらが与えるのではなく、本人が納得して選ぶことです。
自分で選んだ目標だからこそ、人は最後まで走れます。
「これがうまくいったら、どんな状態になっていたい?」
「理想を言うと、どうなれば最高?」
4. 次の一歩を決める
最後に、そのために何をするかを、本人に決めてもらいます。大きな計画より、明日できる小さな一歩まで具体化するのがコツです。
「そのために、まず何から始められそう?」
「いつまでに、どこまでやってみる?」
会話例で見る|型と型のあいだをつなぐ
ここが、多くの解説が触れないところです。スキルもステップも知っているのに、いざ相手を前にすると、返ってきた答えをどう受けて次につなげばいいか分からず、固まってしまう。コーチングの本当の難しさは、型そのものではなく、型と型のあいだ、つまり対話の運びにあります。
具体的に見てみましょう。共有会で、自分の担当分の発表を、いつも人に代わってもらっているメンバーとの対話です。
Before:指示で動かそうとする
上司「次の報告会、担当は〇〇さんだから、今度は自分で発表してね。苦手とか言ってられないよ、成長のためだから」
メンバー「……はい、やってみます」
After:引き出しながら、本人に決めてもらう
上司「報告会の発表、いつも誰かに代わってもらうこと、多いよね。あれ、〇〇さん的には、どんな感じ?」
メンバー「……正直、人前で話すのが苦手で。頭が真っ白になっちゃうんです」
上司「頭が真っ白になっちゃうんだ。(沈黙)…それって、どういうときに特に強くなる?」
メンバー「えっと……準備が浅いまま話すときですね。逆に、資料を作り込めたときは、まだマシな気がします」
上司「準備ができてると、少しマシになるんだ。それ、大事な発見かもしれないね。じゃあ、次はどうなってたらいいと思う?」
メンバー「せめて、最後まで自分の言葉で話しきれたら、と思います」
上司「いいね。そのために、まず何から試せそう?」
メンバー「次の担当分だけ、話す内容を先に箇条書きにして、一回、声に出して練習してみます」
上司「それ、すごくいい一歩だね。よかったら、その箇条書き、事前に見せてくれたら一緒に見るよ」
上司がしたのは、やってね、と指示することではありません。避けている現状を責めずに聞き、真っ白になる、という言葉をそのまま受け止め、それがどんなときに強くなるかを一緒に掘りました。その過程で、メンバー自身が、原因は準備の浅さだ、と気づいています。そこから、どうなりたいか、まず何をするか、を本人に選ばせ、最後にそっとサポートを添えました。
やっていることを分解すると、聴く、受け止める、問う、認める、を、現状から気づき、目標、行動へと、一本の流れの中で続けて使っただけです。指示はひとつもありませんが、メンバーは自分で次の一歩を決めました。これが、型と型のあいだをつなぐ、ということです。
やってはいけない|コーチングのNG
引き出すつもりが、かえって相手の考える力を奪ってしまう関わりもあります。心当たりがあれば、まずここをやめるだけで変わります。
指示ばかり出す:これをやって、次はこう、と手順を渡し続けると、相手は考える機会をなくします。同じことでも、「次はどうすればいいと思う?」と問いに変えます。
話を遮る・否定する:途中で、それは違う、と挟むと、どうせ言っても無駄だ、と口を閉ざします。最後まで聴いて、「そう考えたのは、どうして?」と理由を聞きます。
答えを先回りする:解決策が見えても、すぐ渡すと、本人が気づく機会を奪います。いったん飲み込んで、本人に考えてもらいます。
成果を急ぐ:すぐ変わらないと相手を急かすと、関係が悪くなります。時間がかかって当然、と構えることが、結局は近道です。
コーチングが向く場面・向かない場面
コーチングは万能ではありません。向く場面と、向かない場面があります。
向いているのは、本人に答えを出させたいとき、主体性を育てたいとき、そして、重要だけれど今日明日を争うわけではない育成の場面です。じっくり対話を重ねる価値があります。
向かないのは、一刻を争う緊急時や、そもそも相手にまだ知識がなく、まず教える必要がある段階です。ここで問いばかり投げても、相手は困ってしまいます。この場合は、先にティーチングで土台をつくります。
そして、正直にお伝えすると、コーチングは時間がかかりますし、相手の状態やこちらの余裕によって、手応えが揺れることもあります。焦らず続けることが前提です。
もし、相手の元気のなさが続くなど、気になるサインがあるときは、コーチングで抱え込まず、上司や人事、必要に応じて専門の相談窓口につなぐことも考えてください。
コーチングを身につけるには
コーチングは、いきなり完璧を目指すものではありません。まずは、日々の1on1や面談の中で、一つずつ試すのが近道です。今日は問いを一つ、指示のかわりに投げてみる。それだけでも、関わりは変わり始めます。
慣れてきたら、自分がコーチングを受けてみるのもおすすめです。引き出される側の感覚が分かると、自分がする側になったときの解像度が上がります。
さらに、体系的に、実践形式で身につけたくなったら、講座やスクールで学ぶという選択肢もあります。
まとめ|コーチングのやり方は、教え込むより引き出すこと
コーチングのやり方は、突き詰めると、教え込むのをやめて、相手の中から答えを引き出すことに尽きます。
コーチングは、答えを相手の中から引き出す関わり。主導権は相手にある
傾聴・質問・承認・フィードバックを、一回の対話の中で続けて使う
現状を聞き、気づきを促し、目標を描き、次の一歩を本人に決めてもらう
型そのものより、型と型のあいだ、返ってきた答えの受け方が実体
指示ばかり、遮る、先回り、急かし、は引き出す力を奪う
まずは次の対話で、何か一つ教えたくなったら、その前に、どう思う、と問いかけてみてください。それが、引き出すコーチングへの、確かな一歩になります。
よくある質問
コーチングとティーチングは、どちらが正しいのですか。
どちらが正しい、というものではなく、使い分けです。知識や経験がまだ足りない相手には、まずティーチングで教えます。自分でできるようになってきたら、コーチングで考える力を伸ばします。相手の習熟度で、割合を変えていきます。
口下手でも、コーチングはできますか。
できます。コーチングの主役は、話すことではなく、相手に話してもらうことです。自分が上手に語る必要はありません。むしろ、聴くことに徹しやすい人のほうが、向いている面もあります。
効果が出るまで、どれくらいかかりますか。
コーチングは、すぐに成果が出るものではありません。相手が自分で気づき、行動が定着するまでには、時間がかかります。一度でうまくいかなくても、焦らず続けることが前提です。
1on1とコーチングは、何が違うのですか。
1on1は、上司と部下が定期的に話す場のこと。コーチングは、その中でも使える、相手の答えを引き出す関わり方です。1on1の進め方そのものは、以下の記事をご覧ください。

関連記事:1on1のやり方とは?基本と本音を引き出す聞き方・質問例を会話例で解説
部下が答えを持っていない場合は、どうすればいいですか。
まだ知識や情報が足りず、考えようがない場合は、コーチングより先に、必要なことを教えるのが先です。土台ができてから、引き出す関わりに移していきます。
自分だけのキャリアを、
自分でデザインする力を身につけませんか?
ポジウィル
コーチングスクールPOSIWILL COACHING SCHOOL
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